ひらがな・漢字の読み書き、数感覚・量感の育成をサポート。
姿勢・文具・家庭学習の指導から、「ちょっぴり気になる行動」への対応まで。

■「ぼくは、学校のお勉強が全然わからない」

小学校入学、2日目。ある1人の子が、そんなことを言う。
まだ何も勉強を始めていないのに……。それなのにこのような発言をするということは、それまでの自分の経験から、自分はダメだと思っているということだ。
著者は何度か、1年生の担任をした。その中で、入学した時点でひらがなの読み書きが全くできない子がいた。正確に言うと、自分の名前は読める。しかし、「その文字を読めているのではない」。「おのたかゆき」は読める。しかし「の」「た」「き」は読めない。自分の名前を読んでいるのではなく、図形のような固まりとして認識しているという状態なのである。
なぜ、このような状態になったのか。この子の家庭環境に問題があったのだろうか。しかし、そうではなかった。保護者はどちらかというと、非常に熱心に子育てに取り組んでいた。入学前にどのような家庭学習をしていたのかを尋ねてみると、毎日、1年生で勉強するドリルを1時間近くやっていた。自分の名前もなかなか読めるようにならなかったので、小学校に入って困らないよう、少し難しい問題を毎日やらせていたのだという。
この話を聞いた著者は、「この子の発達段階にあった学習がなされていないのではないか」と気付くのである。
この子が発達障害かどうかはわからない。語彙は少ないものの、日常的な会話もできる。友達とも仲良くできる。生活全般での遅れはない。できないのは、文字の読み書きだけだった。では、なぜ、この保護者はあえて難しい問題をさせていたのか? 「兄弟がやっていた」「園の友達がやっていた」──。保護者からすると、我が子の学習の遅れは非常に心配だ。特に、身近な兄弟や同級生とどうしても比べてしまい、そこで得た情報やアドバイスをそのまま試してみる、というケースが非常に多くなるのである。
しかし、子どもの発達のスピードはバラバラで、同級生がやっていることが、自分の子にもあてはまるかどうかは全く別物だ。

一方、インターネットや書店の棚を見てみると、保護者の不安をあおるようなキャッチコピーがあふれかえっている。「小学校の学習を先取り」「あえてレベルの高いものに挑戦させる」「小学校への耐性を作る」「自分で考えさせる」などなど、もっともらしい言葉が並んでいる。この子に起きていたのは、そうした情報をそのまま試してみてうまくいかなかった典型的なケースである。
ここでの問題は、ひらがなの読み書きができなかったということだけでない。
一つは、「勉強」が嫌いになることである。自分の発達にあっていない問題に取り組まされるのだからできないのは当然で、勉強を嫌いになってしまうのも無理はない。これは小学校に入学する前の子どもにとって非常に大きなマイナスになる。子どもにとって、本来、勉強とは楽しいものでなくてはならない。
もう一つは、親子関係が崩れることである。
この子の場合も、嫌がる子どもを保護者は叱りつけながらやらせていたのだという。「この子が困らないようにするためだ」と、痛む心をおさえて問題をやらせていたのだという。この子は毎日、問題を見るたびに「わからない」「自分はダメだ」と思っていたことだろう。それが冒頭の「ぼくは、学校のお勉強が全然わからない」という言葉だったのである。

■日本ではなぜ、6歳就学なのか?

日本では、6歳で小学校に入学する。5歳では早いのか? 7歳では遅いのだろうか?
日本の小学校カリキュラムは、入学時点で「何を」「どれだけできる」ことが前提として組み立てられているのか?
小学校に入ると、全ての教科でテキストを使う。教科書であったり教材であったりするが、それらのいずれにも文字が使われている。算数にしても、問題に書かれている文字が読めなければならない。また、学校内は全て、文字で案内がされている。
つまり、小学校生活は、入学時点で「ひらがなの「読み」ができる」ことが前提になっているのである。

また、「書き」についても入学から2ヶ月程度で全ての文字を習うことになっている。このスピードで全てのひらがなをマスターしようと思うと、小学校に入学してから勉強し始めたのでは遅いことがわかる。
では、このことを「いつ」「誰が」「どんな方法」で保護者に伝えているのだろうか?
これは非常に難しい状況にあるのが実情である。ある子は幼稚園へ、ある子は保育所へという「二元化の状態」にあり、そもそも義務教育ではないため、園に通っていない子もいる。結果として、小学校では毎年毎年、全く読み書きのできない子への指導に教師は翻弄されることになる。
「義務教育は6歳スタートが本当に良いのだろうか?」という疑問を抱いた著者が各国の就学年齢を調べたところ、多くの先進国では5歳から学習を始めていることが分かったという。
日本の6歳就学が決められたのは、明治時代である。著者によれば、その理由について正確に記述した文献は見つけられなかったが、6歳就学を決めた委員の多くがドイツを研究する学者であり、ドイツからシステムを取り入れたであろうことは容易に推察できるという。
では、ドイツはなぜ6歳就学なのか? すると、児童労働から子どもを守るための措置として行われたという説が有力であることがわかった。つまり、そこに大きな根拠はないのである。
一方、脳科学の分野が目覚ましい発展とともに、ワーキングメモリが学習に大きく関わっており、ワーキングメモリの発達が顕著になってくるのが3歳ごろからであることがわかっている。そして、3歳から5歳という幼児教育が非常に大切な時期であることが証明された。

■「日本はこのままでいいのだろうか?」

著者は特別支援教育コーディネーターとして多くの就学前の子どもや保護者と接する機会が増えるにつれて、そうした思いを強く抱くようになっていく。幼児期にこそ、入学してまもない1年生にこそ、その子の発達にあった教育が必要である、と。
子どもの可能性は無限だ。その子にあった指導を行えば、まるでスポンジが水を吸収するように、能力を伸ばしていく。それと同時に、逆のケースも多く起きているのが現実だ。
自分に何かできないか? それが、著者が本書執筆を思い立ったきっかけである。
「ぼくは、学校のお勉強が全然わからない」とつぶやいた子どもはその後、著者の指導で1学期末までにひらがなの読み書きを全てマスター。家庭でも、保護者の協力を得ながら、この子にあった学習を行ってもらったという。
ひらがなの読み書きを習得していったその子の曇っていた表情は明るくなり、「ぼく、勉強楽しいから大好き」と言うまでになる。
入学前に、子どもに何を学ばせるのかということは、非常に重要な課題である。間違った方法では、子どもを傷つけ、学ぼうという意欲を失わせてしまう。
入学準備、そして入学後の子どもたちへの正しい支援・指導のヒント、満載。
子供達のスタートダッシュを絶対につまずかせないための、すべての教師、必携のガイドブック。保護者の「疑問」にズバリ答えるアドバイスを全章に収録!
子どもの学ぶ意欲を、勉強の楽しさをどのように育てていくか。そのために、周りの大人がどのような支援をしていけばいいのかをテーマとする本書と、「学校生活編」の2巻本。


小学校生活スタートダッシュ【学習支援編】「勉強が好きな子」をつくる

小学校生活スタートダッシュ【学習支援編】

「勉強が好きな子」をつくる


著者:小野隆行

A5判並製・160ページ
定価:2000円+税
ISBN-13:9784909783448
発売月:2020年3月

 

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教科書に出会う前に親子で本読みの練習開始。数字は入学までに30まで数えられればいい。家庭学習は「決まった時間に10分」でOK!…ひらがな・漢字の読み書き、数感覚・量感の育成をサポート。姿勢・文具・家庭学習の指導から、「ちょっぴり気になる行動」への対応まで。安心を「+α」!入学までにしておきたい学習準備。

 

■著者紹介(編著)

小野 隆行 (オノ タカユキ)
1972年9月、兵庫県生まれ。岡山市立小学校勤務。日本の特別支援教育を牽引する若きリーダー。
著書に『先生を救う[時間が増える]シンプル仕事術』『ストップ! NG指導 すべての子どもを救う[教科別]基礎的授業スキル』(共に学芸みらい社)など多数。

 

■目次

・ひらがなの「書き」を教えるベストの方法

・漢字指導のポイントとお薦めの教材

・足し算と引き算を攻略するコツ

・算数が得意になる量感トレーニング

・文具の選び方、1日10分の学習習慣のつくり方

・体幹トレーニングが姿勢を良くする第一歩

・コミュニケーションに困難を抱える子への対応 etc.

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