ルール、着替え、食事、友達とのトラブル、登校しぶり……。
社会性の基本を育てる指導から、「かなり気になる行動」への対応まで

■「先生、怒ってるの?」

著者には、特別支援学級を担任した時の忘れられないエピソードがあるという。
自閉症の子に、その行為はダメだとわからせるために、怖い顔をして指導をした時のこと。その子は一向に反省する様子もなく、ヘラヘラと笑って聞いていた。そこで著者は、「先生は怒っているんですよ」と言葉を発した。その時、その子が著者に向かって次のように言ったのである。

「先生、怒ってるの?」

その時、著者は、この子は自分の表情から感情を読み取ることができないのだ、ということがわかったという。
そこで、表情をいくつか見せて、「これは怒っている顔」「これはうれしい顔」というように、その場で教えていった。そして、次から指導する時には、その都度、自分の表情を見せて、「今の先生はどんな気持ちなのか」を読み取る練習をさせていった。その子は、少しずつ理解できるようになっていった。
これは今から20年前のことだという。しかし現在もなお、日本の学校には感情を教えるこうしたトレーニングはほとんど存在しない。少なくとも、学校や幼稚園でプログラムとして教えているところはほとんどない。

一方、アメリカでは、このことが当然のように教えられている。系統立ったプログラムとして存在するのである。著者がアメリカで視察した学校では、感情の種類を4つにわける方法だった。まず、感情にはどんな種類があって、それがどんな表情なのかを学んでいく。いつから学び始めるかというと、幼稚園からである。その上で、自分が今、どんな感情なのかをメタ認知する学習を進めていく。
自分の名前が書かれたマグネットやクリップを、その感情の種類の場所に貼っておく。そして学習や生活の中で自分の感情が変化したら、その感情の場所にマグネットやクリップを移動させていく。さらに、自分の感情を学習や生活に最適の状態に戻すやり方も学んでいく。
著者は、このエピソードには重要な点がもう1つ、含まれていると言う。それは、「自閉症の子だけでなく、全員の子が学ぶ」ということである。表情や感情の理解は、コミュニケーションスキルの基礎であり、自閉症の子だけが学ぶのではなく、全員が学ぶ方がよい。
アメリカ視察を経て、著者はアメリカはここまで進んでいるのかという驚愕とともに、日本の教育現場の現状に強い不安を覚えるようになる。もちろん、日本の伝統的な子育てや教育方法には素晴らしいものがたくさんあるが、その一方で、科学的な根拠をもった指導も取り入れていく必要がある。
日本の書店の棚やインターネットには、子育てに関しての不安をあおるような情報があふれている。科学的な根拠のある指導が明らかになれば、ちまたにあふれているマイナスの情報に振り回されることがなくなるだろう。

■センサリー・グッズ

また、著者がアメリカの小学校を訪れて驚いたことに、「椅子」がある。
子どもたちが座っている椅子がバラバラなのである。日本のような椅子に座っている子はほとんどいない。形も高さも材質も本当にバラバラなのだ。椅子ではなく、大きなバランスボールに座って学習をしている光景も珍しくなかったという。子どもたちは、自分たちの学習や生活に使いやすいものを選んで使っているのである。
これらは、センサリー(感覚)に対する配慮である。日本には、このような支援がほとんどない。日本では、全国のどこにいってもあの固い均一の椅子に座っている。小学校だけでなく、幼稚園や保育所でさえ、同じ状態である。
これは、本当によいことだろうか?

著者が特別支援学級を担任した時、椅子に座れない子どもがいた。勉強時間だけでなく本を読んだりお絵かきをしたりする時も座れない。無理に座らせようとすると、姿勢がぐちゃっと崩れて机に突っ伏してしまう。また別の子は、お尻をしきりに左右に動かしてじっとしていられず、まっすぐ座れない。
そこで、アメリカで子どもたちが様々な椅子に座っていることを知っていた著者は、色々なクッションを用意する。ホームセンターや家具屋などを回り、5~6種類のクッションを用意し、その子たちに座らせてみた。するとあれほど姿勢が崩れていた子も、座るのを嫌がっていた子も楽に座ったのである。それからは椅子に座って生活や学習ができるようになった。
その時、著者はあることに気づいたという。

「子どもたちは、それぞれ違うクッションを選んだ」

材質も形も違うクッションを準備したところ、子どもたちが自由に、自分の好みで選んだものは、みんなバラバラだった。つまり子どもによって、よいものはそれぞれに違うのである。これはセンサリー(感覚)に関することなのだから、当たり前と言えば当たり前である。
ひるがえって、現在の日本の学校や園は、この事例と逆のことをして、子供達が困っている状況にあるいる。全員が同じ椅子、同じ方法、同じ時間を過ごす。子どもに選択をさせないのである。
同じようなことは、家庭でも起こっている。特別支援教育コーディネーターとして多くの就学前の子どもや保護者と接してきた著者は、保育所や幼稚園の先生方とも学ぶ機会をもってきた。そこでは多くの質問が寄せられる。例えば、食事の時の姿勢についての質問。
「5歳の子が、食べる時にどうしても姿勢が悪くなってしまう。すぐに、足が椅子の上に上がってしまう。食べる時に姿勢をよくすることは大切なので、その都度、注意して直した。すると今度は、肘をついて食べようとする。そして、また注意をする。よい姿勢になるまで食べさせないようにした」
これは、日本中のどこにでも見られる指導である。その結果、この子はどうなったか? 食事をすることへの強い抵抗感をもつようになり、以前のようにたくさん食べられなくなったのである。
このケースへの対処法は、先ほどと同じである。姿勢の保持ができない理由は、おそらく体幹が支えられないことにある。そこで、ドーナツ型のクッションを用意して座らせてみたところ、その子は無理なく座れるようになった。生活習慣・生活能力に関することは、注意だけではよくならないのである。
アメリカでは、中学生、高校生と年齢が上がっていくにしたがって、椅子は同じような形状のものを使うようになっていくという。これは次のことを表していると著者は言う。

「年齢が低いほど、発達や感覚の差は大きい。そのため、その子にあわせた物や方法を選択できることが重要である」

その子にあった方法を見つければ、どの子も生活能力は上がっていくのである。
小学校の入学前、入学して最初の1年は特に大切な時期である。
本書は、科学的な研究が明らかにした発達の理論に基づき、幼児期から小学校入学の段階に焦点をあて、発達の諸段階の違いに配慮しながら、望ましい指導法を紹介する一冊。
特別支援が必要なこどもも徹底サポート。学校生活、安心まるわかりブック! 保護者の「不安」をスッキリ解決するアドバイスを全章に収録!
生活習慣に重き、子どもの困り感をなくすことをテーマとする本書と、「学習支援編」の2巻本。


小学校生活スタートダッシュ【学校生活編】「学校が好きな子」をつくる

小学校生活スタートダッシュ【学校生活編】

「学校が好きな子」をつくる


著者:小野隆行

A5判並製・160ページ
定価:2000円+税
ISBN-13:9784909783455
発売月:2020年3月

 

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小学校生活のスタートダッシュを成功させる「学校生活」をサポート!
保護者の不安をスッキリ解決するアドバイスを詳細に収録。
なぜ規則や約束を守ることができないのか、気持ちと表情を一致させるトレーニング、問題行動は実は間違った自己表現、
一人遊びが多い・会話をしない・不安が強い、学校に行くことをしぶる原因、発達障害と診断されたら…、
保護者が抱える不安、厳選Q&A etc.■著者紹介(編著)

小野 隆行 (オノ タカユキ)
1972年9月、兵庫県生まれ。岡山市立小学校勤務。日本の特別支援教育を牽引する若きリーダー。
著書に『先生を救う[時間が増える]シンプル仕事術』『ストップ! NG指導 すべての子どもを救う[教科別]基礎的授業スキル』(共に学芸みらい社)など多数。

 

■目次

・なぜ、規則や約束を守ることができないのか?

・気持ちと表情を一致させるトレーニング

・問題行動は、実は間違った自己表現

・一人遊びが多い、会話をしない、不安が強い

・学校に行くことをしぶる原因

・発達障害と診断されたら……

・保護者が抱える不安、厳選Q&A etc.

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